改めて、公邸料理人とは

令和3年4月22日
Chef Ito
  フランスでは、昨年10月末に外出制限が再導入されて以来、レストランやカフェの営業はまだ再開していません。コロナ禍以前のように、多くのお客様をお招きしたレセプションや大人数での会食を行うことはまだできません。
今回は、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部及び在フランス日本国大使館での公邸料理人として勤務した経験から、改めて公邸料理人の役割、公的会食が外交活動に果たす役割を考えてみたいと思います。
 
 公邸料理人とは、大使、総領事といった在外公館長に同行し、世界各国に所在する大使館、総領事館、政府代表部等で公的会食業務に従事することを外務大臣が認めた料理人のことを言います。「味の外交官」や「食の外交官」と表現される事もあります。
  公的会食は、国際機関関係者との多国間外交の場、任国政府との二国間外交の場において、交渉・情報収集・人脈形成等を行う外交活動において最も有効な外交手段の一つと言えます。
 
 それでは、公邸料理人としての経験から、公的会食を形式・目的別に分析してみたいと思います。
 
・公的会食の形式
公的会食は、(1)着席の会食、(2)立食レセプション、(3)その他、と大きく3つに分類できます。その中でも、さらに2,3種類に分類できます。
 
(1)着席の会食:
・2~20名 前後の少人数会食 (サーブ)
・30~40名 前後の中規模・大規模会食 (サーブ)
・20~30名 前後の着席式ビュッフェ(セルフ)
 
(2)立食式レセプション(セルフ) :
・40~500名程の大人数でのビュッフェ式レセプション
・30~60 名程のビュッフェ式カクテル・レセプション
・20~40 名程のインディビジュアル式料理提供の立食レセプション
(3)その他 (伊藤料理人の経験より)
・関係者懇談会向けのセッティング:
コース料理を提供する場合もあれば、チーズやおつまみの盛り合わせのみを提供する様な 比較的カジュアルな会食。
・欧州国際連合UNWG主催インターナショナルバザー:
日本政府代表部として参加する、通称「国連バザー」 にて提供する、お弁当やお菓子の提供。
上記以外にも、任地の特色・慣習に合わせた様々な形式があるのでしょう。
 
・公的会食の目的
各国の公館やその時の情勢などにより、公的会食に求められる目的が異なる場合があります。
例えば、私が最初に赴任した在ジュネーブ国際機関日本政府代表府は、国際機関が多く集まるスイスの国際都市ジュネーブにある公館であり「多国間外交」を目的とします。食の面でも多様な文化的背景をお持ちのゲストが多く来賓するため、ホストとゲスト、ゲスト同士のコミュニケーションが円滑になるようなメニューを考えました。
 
前任地 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部の「外交における料理の創意工夫」のページはこちら
  
そして、現在勤務している在フランス日本国大使館は、日本とフランスの「二国間外交」を中心としています。来賓するゲストも主にフランスを文化的背景に持ち、日本について高い興味・関心を持たれている方ばかりです。私は西洋料理が専門ではありますが、西洋料理の中にも、日本の四季を折り込むなど、日本を想起させるようなアレンジを加えています。
例えば、今回掲載した写真の前菜は、中心から少しずれた真っ赤な太陽の周りに、夜の水面に金魚が泳ぎ、その後を追うように、波紋が尾を引きその揺れに夜空の星が映る光景をイメージしました。これは、日本画からインスピレーションを受け、相反するものが一つの枠に収まり、同調している様子を描いています。
 

 
 私が勤務を経験したのは2つの在外公館ですが、世界には、大使館、総領事館、政府代表部など200を超える在外公館があります。それぞれの任地の慣習や外交活動の目的を考慮しながら、各々の料理人が得意とするスタイルをフルに活かし、日本外交に役立つ料理やおもてなしを提供する事が、公邸料理人の役割であると思っています。